チームラボで作品制作に関わって2年経ちました
メンタル面と炎上とを考慮して、いつ書くべきか、いっそ書かずかとも思ったのですが、気持ちが動く間に筆を進めていました。 お蔵入りするのも何ですし、期を見計らって公開しています。1 年目の記事は「チームラボで作品制作に関わって1年経ちました」にて。
自分の備忘録的に、あるいはこれを見つけて読むほどにチームラボについて興味を持つ方を想定して書いているので、非常に文章量が多いです。 まずは最近担当した作品について、次に思うことなど書いています。
このコンテンツには半ば宣伝的な内容が含まれていますが、完全に自由意思で書かれています。また正確さを欠く内容もあるかと思います。 特別の明記・名言がない限り、別所を含む、私個人のあらゆる発言やそれに準ずるものは、私の所属する一切の団体やそれに準ずるものに関せず、私個人の見解や思想に依るものです。 もちろん同じく制作に関わる人たちの総意でもありません。
2018/07/03 追1:注意書きをした上ですが、誤解と浅学、浅慮のために一部の方たち(執筆時からぼんやり思っていたが主に身の回りの方)に 心労および一抹の不快を与えてしまっていたようなので、一部内容についてはこれを非表示にしました。 これもまた誤解ないよう注意書きしておきますが、特別の言論統制があったわけではありません。
非表示にした内容に偽りの内容があったわけではなく、まぎれもなく執筆時点での自分の思想と心境に基づく内容でしたが、 それをきっかけに周囲が不当な評価をされる可能性があることは私の望むところではないためです。
2 年目に関わった作品
1 年目と 2 年目 (3 年目) と横断的に関わった作品もありますが、前回記事以降から関わった作品について書いてみようと思います。
フランス・お台場 / Borderless
時系列前後するのですが、間もなくリリース & 最近話題になっているので、先にこちらの話を書こうかと思います。 昨年のロンドンに引き続き、お台場とフランスの大規模会場で「境界のない群蝶(儚い命)」の担当をしています。
色や大きさ、形の違う蝶々が人々から生まれ、集い、あらゆる作品(ときにはモニタ)を横断し、 ときに新しい演出を作り出す、しかしひとたび触れれば死んでしまう、という作品です(色んな意味で境界がない)。
作った人間のエゴ話をすると、蝶には人間味を与えたくて、個体差がついています(CG で良くやるやつですが)。 脚が遅かったり速かったり、群れやすかったり孤独になりやすかったりする蝶がいます。
遅い個体は群れから離されてゆき、そしてまた後から飛んでくる他の蝶と群れたり、 速い個体は速い個体同士で固まりやすく、しかし一度離れれば一気に別の集団を作り始め、 孤独な個体は上手く群れられず、それぞれの個体はひっついては離れを繰り返します。
蝶は是非に触って (ほどほどに!) 死なせて見てほしいと思います。 死なせてしまうことで、幼児期の無自覚な残虐性とかを思い返したり、追体験してもらえると嬉しいです。 この辺りは猪子さんの言う「自然で遊んでた頃の体験を~」というコンセプトを上手く取り込めてるような気もします。
リアルな蝶を見かけるたびに死なせるなんてことはしないのに、デジタルだと平気で死なせてしまう。 そして、基本的に人が干渉しないと蝶は生まれないです。つまり、もしかしたらあなたの友人・恋人・お子さんから生まれた蝶かもしれない。 そういう見方をしても面白いかもなぁと。
どこの展示に出してもそうだったんですが、結構みなさん喜び勇んでバシバシ叩いて死なせます。 なので、訪れたところで蝶が見れない、1 匹もいないなんてことは全然あり得ます。
まだまだ裏側の仕様盛り盛りで、細かいことはもう割愛しますが、あとは他作品との連動がどうなってるのか見て貰えればなぁと。 例えばグラフィティネイチャーの蝶が 4F から飛んできて 3F の群蝶に紛れ込んだりもするので、発見したらそっと見守ってあげてください。
基本的に他作品とセットになる群蝶はまず単体で紹介されることがなく、見かけ地味で(いて当たり前になりつつあって) そのために感想を見かける機会も少ないのですが、先日たまたまTVに映して頂いて「残酷だなぁ」というコメントをお見かけしました。 そう捉えてくれる人が出て来てくれることが嬉しい。たまに人間臭いというコメントをもらうこともあります。嬉しい。
佐賀屋「MoonFlower/月花」
色々あってサポートに入り、途中で自分にリードが変わった作品です。 お皿を機会学習を用いてセンシングし、位置情報や形状を基にテーブル上と周囲の演出を変化してゆきます。
2 年目の多くの時間をこの作品で過ごしていました。何せ数が多い。コースの数 * 12 か月分、 ほとんど毎月演出が変化していくので、多分 1 コンテンツの情報量で言えばラボ過去最大級と思います 自分の担当は全部じゃないけど主に花で、しかし花の演出の多いこと。
当初複数人で制作にあたり、途中で 2 人になったり、4 人に増えたり、リードを引き継ぎ、 リソースが変容しつつ、しかも毎月リリースがあるという、メンタル的にも体力的にもハードな現場でした。
何度かトラブルがあり、お店の方には大変ご負担をかけたこともありますが、サービスの方の数々のサポートや、オーナーの懐の広さに大変救われました。 一人残って対応していたとき、オーナーが出してくださった夜食は最高に沁みた、そうでなくても美味しいですが。
1 年目にも書きましたが、クライアントの方々に本当に恵まれています。 新しいことにチャレンジしようとすると、どうしてもトラブルや課題が後出しで出てきます。 我々がそれらを解決することが求められるのは勿論ですが、クライアントの方々がそこに理解を示して頂けることは本当にありがたいです。
オーナーもシェフも良い体験を提供するためにこだわりを持ってコミュニケーションを取ってくださり、 「演出のために」器に拘り、料理に拘りしています。特に初夏期間にシェフが作ってくださった稚鮎の天ぷらとお皿、演出の連動感が素晴らしく、 まさに皿の上のアユが川に生れ出たように見えて、「してやられた」感が凄かったです。なお個人的には演出は夏~秋がお気に入り。
※お店で提供されるコースメニューは時期や食材の調達可不可によって都度変わっています。
(私からすると) 少々値段は張りますが、興味を持っていただけたときは、何かの記念の日や特別な人と体験して頂けると。 引きで見るのと席に座ってみるのとで全然体験が違って、引きで見ると単調に見えますが、 食事を邪魔しない程度に絵をうるさくしない様にしてたり、座った高さで見栄え良くなるようになっていたり、 でもシーンの切り替わり時には、演出的に派手に散らしたりなんてことを当時考えていた記憶があります。
よくあるコメントで「川のシーンでは青色が出て食欲減衰しないの?」というものを見かけますが、 スポットライトの色を調整するなり、料理の方でも工夫してくださっていています。 もちろん個人差もあるでしょうが、その辺のはきちんと気にかけていますし、気にかけてくださっています。
「teamLab PLANETS / Floating in the Falling Universe of Flowers」
初めてチームラボで仕事をさせて頂いたときの作品が豊洲に 2 年の常設で帰ってきました。ドーム設備なんて中々用意できるものではありませんから、 またこの作品を世に出させていただけるのは大変ありがたいことです。(とはいえ、お台場やフランスのために別の方に導入までをお任せしてました、これもまたありがたく。)
仮設のドームの頃と比較して、びっくりするくらい綺麗に作ってくださったドームに投影しています。 また壁面もビニール地ではなく、きちんと全体を暗くできるような素材です。以前はいかにして暗くして、梁を目立たなくし、ビニールに反射しないようにするかなんてことを考えていましたが、 今回に関して言えば想像をはるかに超えて映像が暗くなったので、花の数をかなり増加して、グローの強度もあげ、むしろ多少明るくなっても良いかくらいの思い切った絵作りをしています。 基本的な演出内容に違いはありませんが、演出の強弱のような物はより一層目立つようになったかと思います(PCのスペックも向上しましたしね)。
曲に合わせて季節が巡り、徐々に咲く花の量が増えて一斉に咲かせたと思えば、それが終われば繁栄のときはすぎて、また少ない花の数になって、それを繰り返し続けています。 今にして思えば自分が担当するものは基本的に儚いです(あと写真に撮りにくい)。群れては散らされるか、一気に咲いては散るか。自分の思想が反映されているんですかね。
徐々に栄えたり緩急をつける表現については相談のうえで展開されていったのですが、あとの演出については前回のときも結構裁量をくださってました。 宇宙のような感覚・酔わせたい・星や銀河に突入していくような瞬間があっても良い、なんてザックリした方針があり、 過去作品を参考にしながら、それらの要素をどうやって表現するかと思案して作って言った記憶があります。 ジェットコースターや宇宙についてのSFライクな映像を繰り返し見てました。奥行方向に広がっているように見せる方法に関しては、 学生時代の知見も生かしたりしています。
セントレア空港お絵かき飛行機
この夏セントレア空港でオープンするチームラボの演出の 1 つに「お絵かき飛行機」があります。 フルに参加しているわけではなく、コンテンツ展示の検証までの開発と、演出についての相談役として参加させていただいています。
こちらについても出ている情報以上に口外できないのですが、それなりに大きな作品となりそうで、解禁後に追記しようかなと思います。 そもそも空港全体にいくつもコンテンツがあるって、フランスに負けないくらい規模が大きいですね。
プロトタイピング 3 件
他に別作品のプロトタイピングが 3 件ありました。例えばある作品を今ある別の展示会場で展示したり検証できるようなシステムを組んだりしていました。 内 1 件がめでたく成就して、堂島リバーフォーラムで波の迷路として展示されます。
あとは導入のお手伝いがチラホラとかです。
チームラボを目指してみる人へ
1 年目の記事に多くこのことについて書いてあります。言いたいことはほとんど変わりません。 付け加えるとすれば、最近はますますハードルが上がったものと考えて良いです。今自分がチームラボのインターンなり採用なりを受ければ、間違いなく通らないでしょう。
インターン生でありアルバイトである高尾さんの記事も大変参考になると思いますので、興味がある方は是非読んでください。 尤も、私から見た彼は非凡の領域に達していると思います(後天的だとしても、そしてますます活躍されることを楽しみにしています)。
1 つだけありました。尊敬する(そして大変お世話になっている) CV チームのリーダーが、最初期の作品を作った後にそれを紹介している動画があって、 その中に「今できないことをすぐにできないと決めてしまう人はラボに向かない」という(類の)コメントがあり、確かにそうだなぁ、反省しなければと思いました。 このコメントは正しいと思います。動画なぜか消されてしまったのが残念。
技術同人誌書いてます
あとは多くのことを経験して、多くのものを作ってみましょう。自分にはそれが足りてないなと思います。本当に。 今の時代制作する環境は無料で提供されてますし、情報も多く転がっています。そして多くの物を作ってる人は、面白人が多いです。 手を動かさない手はありません。
少々宣伝染みますが、自分も含み、コンテンツ制作に取り組んでいるメンバーが集まって書いた同人誌も販売しておりますので参考までに。先に紹介している高尾君も素晴らしい記事を執筆してくださっています (自分ももう少しハイレベルなコンテンツが書けると良いんですけども、それだけの技量と知見が足りていないので、とっかかりばかり書いてます)。
その他
以前ラボで仕事をご一緒させていただいた方から、批判的な内容についても取り上げて欲しいとあったのですが、 色々書くと酷く長くなるし、ここで取り扱うのもどうかとなので、特に最近思ったことを短めで。
(1) せめてお子さんがいる方はもう少し時間の都合がつくようにしてあげたい。既に大きなプロジェクトは落ち着いてきてますし、 余計なお世話だし、自分がどうのこうのできる話でもないんですが、(実力不足も原因とは言え) 一度心の余裕をなくした自分が改めてそう思います。
何かを作るにしてもある程度の余裕がないと、良いものが出来なくなるし、無理くりできたとしても、次に繋がらなくなってしまいます。 知の継承と共有を目指していくなら、素晴らしい人材を大事にしていただきたく(自分がそれに収まるかどうかは兎も角として)。
(2) もうちょい企画段階でクリエイター側の意見を吸い上げる機会があっても良いかもなぁと思います(もちろん希望する人が)。 自分のことはさておき、チームラボには優秀なクリエイターが沢山います。企業体制だから実現できることもありそうで、 ボトムアップ的な作品作りも今後増えると良いなぁと思っています(私のレベルではまだまだやりきらないが)。
基本的には匿名だけど
あとは、内に向けた批判というわけではないのですが、実際に作品制作にあたり、すごい能力を発揮していて、 (私が、勝手に)自慢したい人たちがいるので、そういう方たちに日が当たることがもう少しあっても良いかなぁと思います。
最近になってそういった露出も増えてきて、これを執筆している前後で発行された雑誌「PEN」でも私の尊敬する方々が掲載されているので、ご興味がある方はぜひに。 個々の方の内容が厚いわけではありませんが、特集として何ページにも渡って書いて下さってます。
実際のところ、社の方針としてほとんどのケースで制作にあたった人たちの個人名は出しておらず、それが良い方向に働いていくことも良くあります。 個人名主義であれば、指名制度のようなものが成立し、なかなか上手いリソースの管理ができないかもしれませんが、 一方で匿名であれば、その時に最適なリソースの管理と、最適な人材の割り当てができる可能は高くなります。
自分なんか新人一発目の仕事で大きな作品を作らせていただいたわけですが、指名制度だったらあり得なかったでしょう。
とはいえ、であるならであれば「アートコレクティブ」であることはもっと知って欲しくて、 多様な作業をこなしていくカタリストがいて、短い時間を押して撮影・広報してくださる人たちがいて、何よりもバックグラウンドには SI のチームがいて、 トータルで初めてチームラボの作品が成り立ってるんでないかと思ってます。
失っているものが見えてきた 2 年目
終わりになりますが、以下のことは極めて私事です。
細かいことは 1 年目の記事 を参照して欲しいのですが、 要するに、大してアートの文脈も才能も勉学的な優秀さも環境も持ち得なかった人間が、2 年目を生き延びることができました。
ただこういう世界に踏み入ってみたいという挑戦心だけのために、 「本来経験するべき、知っているべき、必要とされるべきことを大概捨てて生きている」ところがあり、 2 年目を振り返ってみれば、まぁ良い年しながら情けない位に子供のように生きてるなぁという感覚があります。 支えてくださった、成長させてくださった方々に、この場においても改めて感謝いたします。 願わくば今後もお付き合いいただきたく、離れて行ってしまった方々におかれましては、そのそれぞれに良い未来があることを祈ります。
1 年目では必死過ぎて気が付きませんでしたが、2 年目を以って見えてきたこともあり、 得たものもあれば失ってる(失った)ものも結構あるなぁとヒシヒシ感じています。ある種覚悟していたことでもあるんだけれども。
シンプルに言えばプライベートと心的余裕の多くは捨てられている(た)し、 楽しいもの作れてないなぁ、というぼんやりした飢餓感のようなものは最近よく感じてます(実力不足だから致し方ないとも)。 小さいブログポストすらも全然できてないですね。
(07/03追) 進退についても考えなくてはなりません。貢献できることについては貢献できたし、 果たしてこれ以上に貢献できることがあるのかと悩んでいます。もう少しできることはありますが、いつまでどこまでやれるのかは定かではありませんね。
「挑戦する・したい・していない人たちへ」さて、とは言え、明確に持たざる人間が、 色んなものを捨てながら、決してメインは張らないものの、有名?企業というバックグラウンドに威を借りながらも、 結果的にはロンドンへ行き、フランスへ行き、大規模展示にも加わわったわけだ。 自分を見て「あんなやつができるんだから」と思い、何かに挑戦したい人の背中を押せるなら幸いと思う。